動物仲間のくせに人間に買収されて!――というように。
総立ちだ。
足踏みだ。
大喚声だ。
傷ついた馬は、騎士を乗せたまま引っ込んで行った。が、直ぐに出て来た。おや! 同じ馬じゃないか。AH! 何という ghastly な! はみ[#「はみ」に傍点]出ていたはらわた[#「はらわた」に傍点]を押し込んで、ちょっと腹の皮を縫ってあるだけだ。そのままでまたリングへ追いやる!
縫目の糸が白く見えている。
何と徹底した苦痛への無同情!
馬は、恐怖にいなないて容易に牛に近寄ろうとしない。それへ槍馬士《ビカドウル》が必死に鞭《むち》を加える。
この深紅の暴虐は、私をして人道的に、そして本能的に眼をおおわせるに充分だ。
が私ばかりじゃない。私の二、三段下に、さっきから顔を押さえて見ないように努めていた仏蘭西《フランス》人らしい一団は、このとき、耐《たま》り兼ねたようにぞろぞろ[#「ぞろぞろ」に傍点]立って行く。女はみんな蒼い顔をしてはんけちで眼を隠していた。
ドン・ホルヘは我慢する。
女のなかには気絶したのもあった。あちこちで担ぎ出されている。道理で、女伴《おんなづ》れの外国人が闘
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