一条件とする。とにかく、すべての方面から観察してこれで宜《よ》しということになって、はじめてマドリッドなりセヴィラなりバルセロナなりの晴れの闘牛場へ引き出されるのだが、その時の牛は、きょうの「牛の略歴」に徴しても解るとおり、また現にいま、私の眼下に黄塵を上げて荒れ狂ってる「黒い小山」を見ても頷首《うなず》けるように、牛骨飽くまで太高く、牛肉肥大、牛皮鉄板のごとく闘志満々、牛眼らんらん[#「らんらん」に傍点]として全くの一大野獣である。この闘牛《トウロス》の値段は、なみ[#「なみ」に傍点]牛のところで一頭三千ペセタ――千円――が通り相場だが、今日のような年一回の赤十字慈善興行なんかに出場する「幸運牛」になると、あらゆる牛格を完全以上に具備していて闘牛《トウロス》中の王者というわけだから、値段も張ってまず七千から一万ペセタ――三千二、三百円――に上る。したがって闘牛養牧場《ガナデリア》―― Ganaderias ――は、西班牙《スペイン》では栄誉と金銭が相伴う最高企業の一つだ。が、立派な闘牛の産地は歴史によって昔からきまっていて、今のところ二個処ある。きょうの闘牛《トウロス》ドン・カルヴァ
前へ 次へ
全67ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング