ica ――の若手が五人、素手に、おのおの肩や腰の紅布《ミウレタ》を外して拡げながら、あちこちに陣取って、身構えた。
 広い砂のうえに、ほかに人影はない。

     5

 はじめ噴火みたいな底唸《そこうな》りが聞えて来た――と思うと、いきなりリングの一隅から驀出《ばくしゅつ》した「真黒な小山」!
 何て大きな牛だ!
 闘牛場全体に溢れそうじゃないか。
 あ! こっちへ来る。びっくり[#「びっくり」に傍点]してらあ! この日光に、色彩に、音響に。
 まるで疾駆する「黒い丘」だ。
 鈍重の代名詞が、こんなに早く走れようとは私は今まで思いも寄らなかった。
 すでに彼は、早速手ぢかの紅布《ミウレタ》へ向って渾身的攻撃を開始した。
 きらりと角が陽に光った。闘牛士が身を躱《かわ》した。黄砂が立ち昇った。紅片《べにきれ》がひらめいた。
 牛はいま、さかんにその紅いきれへ挑みかかっている。
 そうだ。そう言えば、まだこの「牛《トウロス》」のことを説明しなかったが、ちょっとここで一つ大急ぎで書いておこう。
 闘牛用の牛はTOROSと言って、牛でさえあれば何でもいいというわけには往かない。だから、昨
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