砂を打つ。ベルモント門下の高弟|槍馬士《ピカドウル》のひとりが拾う。鍵だ。赤いりぼん[#「りぼん」に傍点]が結んである。牛小屋の鍵だ。
歓声・灼熱・乱舞する日光。
やあ! 鍵を押し戴いた闘牛士が、観覧席の一方へ手を上げて、胸を叩いて絶叫し出した。
『OH! わが心臓の主よ! 悦《よろこ》びとそうして望みの君よ! わたしはこれからあなたの光栄のためにこの牛を殺して私の勇気と武芸を立証します――!』
AH! 何というDONキホウテ式|科白《せりふ》! 呆れた大見得! 中世的な子供らしさ!
すると、その方角に当って、人のなかから女が起立した。この闘牛士の妻、もしくは情婦、とにかくこれが彼のいわゆる「心臓の主」なのだ。
夥《おびただ》しい視線の焦点に、ぼうと上気して倒れそうな彼女が、胸のカアネエションに接吻《キス》して、下の闘牛士へぽん[#「ぽん」に傍点]と投げる。
ふたたび、喝采・動揺・乱舞する日光――羅典《ラテン》的場面の大燃焼だ。
これを合図に、ベルモントをはじめ重立った闘牛士は、一時|溜《たま》りへ引っ込んで行く。
あとには、最初出来るだけ牛を怒らせる役―― Veron
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