る一廓があって、夜おそくそこらをうろつくと、方々のキャフェで西班牙酒《モンテリア》をあおってる彼らの影絵《シルエット》がもうろう[#「もうろう」に傍点]と揺れ動いている。で、まあ、それほど志望者が多いもんだから、ちゃん[#「ちゃん」に傍点]と闘牛学校まで出来ていて、未来のベルモントを夢みる青少年の群――なかにはアルゼンチンあたりから留学してるのもある――に、初等闘牛史、怒牛心理学概論、闘牛道徳、闘牛作法、扱牛法大綱なんてのを講義したり実修したりしている。
さあ、ここでいつまでも闘牛士にかまっちゃいられない。入場式が済むと、直ぐに牛が出て来るから――。
粛々と前進してきた今日の出場闘牛士は、いま正面ボックスの下に整列している。
ESPADAのベルモントが、一同を代表して司会者――これはたいがい皇后さまか宰相夫人か、とにかく女性にきまってて、この日は赤十字マドリッド支部長としての市長夫人だった――へ、大芝居に騎士的な一礼をしている。
何と graceful なその史的洗煉!
扇をとめて、市長夫人がボックスに立った。何か抛《ほう》った。黒い小さな物が赤い尾を引いて、円庭《リング》の
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