ファエル・グエラはほん[#「ほん」に傍点]の一季節の闘牛に二百二十五頭の牛を斃《たお》して七万六千ジュロス――十五万円余――を獲たことがあるし、現今でも、何のたれそれ[#「たれそれ」に傍点]と名のある闘牛士なら、年収約二万から二万五千円を下らないのが普通だ――税務所の調べみたいになっちまったが、こんなふうに、名が出ると金になる。女には持てる。学問も教養も要らない。要らないどころか、そんなものは無いほうがいい。第一、人中《ひとなか》で牛が殺せる! と言うんで、貧乏人の子供でちょいと腕っぷしの強いやつ[#「やつ」に傍点]は、争って闘牛士を志願する。なかには医学生のぐれ[#「ぐれ」に傍点]たのや、電気技師の勤め口を棒に振って闘牛庭《レドンデル》の砂にまみれてるといった酔狂なのがあったりして、この闘牛士の仲間は、色彩的な西班牙《スペイン》の社会により[#「より」に傍点]強烈な色彩を塗っている絵具だ。マドリッドの太陽広場《プラサ・デ・ソル》から左手へ這入った古い狭い横町に、役者――ドン・モラガスをはじめ――だの、この下っぱ闘牛士なんかのぼへみあん[#「ぼへみあん」に傍点]連中が勝手な生活をしてい
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