て歩いて、手を振る、握手を求める、上の窓から花を抛《なげ》る、まるで紐育《ニューヨーク》人が空のリンディを迎えるような熱狂ぶりだった。西班牙《スペイン》国民の大闘牛士に対する崇拝ぶりはこれでもわかる。英雄ベルモントは探険家のような風俗の、もう半白《はんぱく》に近い軍人的《ミリタリイ》な好紳士だ。一日の出場に七千から一万ペセタ――わが約三千円あまり――を取る、だから今では、大した地所持ち株もちだが、最近本人が勇退の意をほのめかしたところ、たちまち国論が沸騰した。牛で儲けた金だから死ぬまで牛と闘えというのだ。これにはさすがのベルモントも往生してるようだが、このファンの声も、言いかえれば、ベルモントなきのちの闘牛を如何《いかが》せんという引止《ひきとめ》運動に過ぎないんだから、老闘牛士も内心|莞爾《かんじ》としたことだろう。その他、有名な闘牛士にはガリト、マチャキト、リカルド・トレスなんかの猛者《もさ》がいて、すこし古いところではアントニオ・フュエンテがある。この人はアルメリヤの近くに、「領土」とも謂《い》うべき広大な土地と、古城のような屋敷を持っている。それからこれも今は故人のはずだが、ラ
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