式結髪《ピッグ・テイル》――COLETA――は、西班牙《スペイン》では甚だ粋《すい》な伊達《だて》風ということになっている。闘牛士を追っかける|踊り子《タンギスタ》なんか、あの人の髷っぷりが耐《たま》らなく憎らしいとか何とか――まあ、その間いろいろとろまんす[#「ろまんす」に傍点]があるわけだが、じっさい、西班牙《スペイン》における闘牛士の地位は日本の力士に似ていて、みんなそれぞれにパトロンがあり、なかには、名士富豪にくっ[#「くっ」に傍点]付いて廻って酒席に侍したりする幇間《ほうかん》的なのもすくなくない。派出《はで》な稼業だけに交際が大変だ。おまけに大立物《エスパダ》になると、見習弟子だの男衆だのと、いわゆる「大きな部屋」を養っている。そのかわり名誉と収入も莫大なもので、近いためしが、今日の人気闘牛士ベルモント――この人はセヴィラに宏壮な邸宅を構えている。これはあとから私がセヴィラに行って居た時だが、或る日、ホテルの下の往来が急に騒々しいので覗いてみるとちょうどこのベルモントが、散歩か何かの途中街上で、市民に包囲されたところで、男も女も子供もわいわい[#「わいわい」に傍点]後をつい
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