牛士だ。見てるうちに私は何となく可笑《おか》しくなった。
 横に長い黒の帽子。
 中世紀の小姓みたいな総金もうる[#「もうる」に傍点]の短衣《チョッキ》。
 赤・青・黄に同じくモウル付き半ずぼん。
 揃いの赤ネクタイ・白靴下。
 肩や腰に紅布《ミウレタ》をかけてるのもある。
 それが威儀を整えて練り込んで来るのだ。
 絢爛《けんらん》。堂々。颯々《さっさつ》。
 が、何という莫迦々々《ばかばか》しい大仰さ。
 ナヴァロのような青年。
 彫刻的な浅黒い相貌。
 金ぴかの全身にダンスする光線。
 贔屓《ひいき》の闘牛士の名を呼ぶ観客の声。
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てらら・らん・らん!
てらら・らん・らん!
[#ここで字下げ終わり]
 ――ここにちょっと妙なのは、この闘牛士連がみんなちょん[#「ちょん」に傍点]髷を結ってることだ。
 しかも、その蜻蛉《とんぼ》のようなまげ[#「まげ」に傍点]の撥先《はねさき》を帽子のうしろから覗かせている。
 Coleta という。
 ちょん髷の西洋人なんて初めて見たが、何となく不気味な感じだ。ちょうど日本のお相撲さんみたいなもので、この、闘牛士に特有の豚尾
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