《タアル》塗りの木塀がめぐらしてあって、そのところどころに、半狂乱の牛の角のあとらしいこわれ[#「こわれ」に傍点]が見えている。それはいいが、この観覧席がまた妙なふうに区別されていて、まえにも言ったとおり、闘牛は炎天下に行われるんだから、その当日、何月何日の何時ごろには、どの辺に陽が射してどこらが蔭になるということはちゃん[#「ちゃん」に傍点]と前もって判っている。そこで、それによって座席が二大別されて、日蔭を Sombra と言って上等席だ。このほうはたいがい二十から二十五ペセタ――一ペセタは邦貨約三十銭強――陽の照る側の sol は、入場料十ペセタぐらいでまず二、三等にあたる。
 こんなふうに日向《ソル》よりも日蔭《ソンブラ》の席がずっと高価《たか》い。そうだろう、陽かげは涼しいにきまってるから――なんかと思うと大変な間違いで、ではどうして日蔭が高級席かというと、これにはまた大いに西班牙《スペイン》的な理由がある。それは、突かれ刺されて半死半生になった牛は、苦しいもんだから例外なしに陽影へ日かげへと這入って来て、死ぬ時はいつも日蔭席の真下ときまっている。だから闘牛の後半――最も白熱
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