的な部分は日蔭の側で演じられるわけで、従って、ここに居《お》れば一番よく見え、その残酷な快感を詳細に満喫出来るというんで、ほんとの闘牛ゴウアウスの連中は、借金しても争って、倍も高い陽かげの一等《ソンブラ》へ納まるのだ。が、倍でも三倍でも、SOLにしろSOMBRAにしろ、きょうのような年一度の特大闘牛になると、何でもいいから切符が手に入っただけで幸運に感謝しなければなるまい。私もこの切符のため数日来東奔西走したが、かなり前から発売してるにかかわらず、疾《と》うの昔に売り切れちまって、市内の切符売場《レイベンタ》を廻ってみると、二十五ペセタの日蔭券《ソンブラ》が一枚二百ペセタ――六十円――あまりに暴騰している。べらぼう[#「べらぼう」に傍点]な話だが、こうなるとまるで入札みたいなもので、それさえ見てるうちに値上げされて行って、なかなか手に落ちそうもない。これは、はじめ仲買人《レベンタ》が切符を買い占めて人気を煽《あお》り、いま小出しにしてるのだというような評判もあったが、何しろちょっと近寄れそうもない鼻息で、私なんか途方に暮れたかたちだった――するとここへ、かの下宿のペトラの恋人、名優ドン
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