したところで初まらないから、そこで大々的《スペクタキュラア》に牛を殺すことにしたのが、このいすぱにあ国技「こりだ・で・とうろす」だ。だから、西班牙人《スパニヤアド》は男も女も自らの情熱の捌《は》け口をもとめて、万事を放擲してこれへ殺倒する。もちろん一つは、アラビヤ人との混合血液による国民性だが、毒を征するに毒をもってすという為政的見地から、皮肉に言えば、闘牛は、夏のすぺいん人の一時的錯乱に対する安全弁かも知れない。思うに、この蛮風も風土的必要に応じて発生したものであろう。道理で、サン・セバスチャンにあった有名な賭博場《キャジノ》を閉じて国中からばくち[#「ばくち」に傍点]を追った現独裁宰相――西班牙《スペイン》のムッソリニ―― Primo de Rivera ――も、まだこの闘牛だけはそっ[#「そっ」に傍点]として置いてる。もっとも彼だってすぺいん人だから、熱烈な闘牛ファンであっても差しつかえないわけだが、闘牛を禁止すると西班牙《スペイン》に革命が起るとみんなが言ってる。その革命も、夏の暮れ方に、のぼせ[#「のぼせ」に傍点]上ったDON達が街上に踊り狂ってお互いに料理《ブチャア》し合う
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