市民の心理を掴んでいて、闘牛はいつも夕方にきまってる。午後四時から五時、六時から七時までのあいだだ。なぜ?――と言えば、長い暑い、だるい一日が終りに近づいてくると、都会人は、強烈な日光にうだ[#「うだ」に傍点]って八〇パアセントばかり病的な状態におち入る。これは「気候温和にして」と地理の本にもあるような、わがにっぽん[#「にっぽん」に傍点]国ではちょっと想像出来ないかも知れないが、砂漠と仙人掌《さぼてん》と竜舌蘭《りゅうぜつらん》のすぺいんなんかでは、誰でも或る程度まで体験する感情に相違ない。つまりこの、一日の暑気と日光に当てられて、町じゅうの人が牛でも猫でも、何でもいいから早く殺しちまいたい発作的衝動に駆られてうずうず[#「うずうず」に傍点]してる時刻、ちょうどこの時は、太陽も沈むまえで思いきりその暴威を揮《ふる》う。南の夕陽は発狂的だ。風は死んで、爆破しそうな焦立《いらだ》たしさが市街を固化する。人の血圧は高い。神経は刺戟を求めて、そしてどんな刺戟にでも耐えられそうに昂進している。おまけに、陽はいま最も地上に近い――といった、心理的にも気象的にも殺伐な潮どきを見計らって、何も猫を殺
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