ケ《サン》フランシスコ寺院前の女乞食も、常用のよごれた肩掛《マンテラ》を売り飛ばしてさえ出てくるこの大闘牛日だ。「闘牛行《トウロス・トウロス》」のしんがりがまだ続々|雪崩《なだ》れ込んで来ている。
開演まぎわに馬車《コウチエ》で駈けこんで、満員の全スタンドに思うさま着物を見せようというのが、マドリッド社交界の流行《ファッション》だ。それが期せずしてここに落ち合って、この不時の馬車行列――二頭立ての馬車《コウチエ》が、砂けむりを上げて後からあとからと躍り込んで来る。四人乗りだが、きょうだけは六人満載して、幌《ほろ》のうえに女がふたりずつ腰かけてる。一行正式の西班牙《スペイン》装束だ。女達は、あのマントン・デ・マニラという、大柄な縫いをして房の下った、いわゆる Spanish Shawl を引っかけ、高々と結い上げた頭髪の後部に大櫛《ペイネッタ》を差し、或る者はそのうえから黒また白の薄い|べえる《マンテリア》をかけ、カアネエションの花――西班牙《スペイン》の国花――を胸に飾って。
席へつくと同時に、みんな言い合わしたようにこのマントン・デ・マニラをひらり[#「ひらり」に傍点]と肩から滑
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