轤オて、自席のまえの欄干へ懸ける。これが何よりの闘牛場の装飾になる。いまスタンドのそこここに大輪の花が咲いたように見えるのが、それである。
扇子と 〔Manto'n de Manila〕 とCAPAとぼいな[#「ぼいな」に傍点]とカアネイションと牛と。
そして興奮と白熱と饒舌と女性と。
なかんずく太陽!――闘牛は今はじまろうとして、全すぺいんがここに集って待っている。
――で、直ぐ始めてもいいんだが、闘牛に関する幾らかの予備知識を持たなくちゃあただ見たって面白くあるまい。もっとも私の席はかなり闘牛庭《レドンデル》へ近いから、よく見えることは見えるんだけれども――とにかく、この座席を占領するまでにどれだけ私が苦心惨澹しなければならなかったか。ひいては、闘牛というものに対する西班牙《スペイン》人の心持は如何《いかん》? というようなことから、いよいよ始まるまでの数分間を利用して、この機会にすこし「闘牛考」をしてみよう。
もう大分まえだが、私がピラネエ颪《おろし》みたいにこのマドリッドへ吹き込んで来た当初から、年に一回の最大闘牛、赤十字の慈善興行が来る日曜日――すなわち今日――催され
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