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[#ここで字下げ終わり]
番附売りの小僧が人を掻《か》い潜《くぐ》って活躍してるのが見える。この「牛の略歴」というのを読んでみると――。
「今日第一回の殺害《せつがい》に使用さるべき名誉ある幸運牛[#「幸運牛」に傍点]は、名をドン・カルヴァリヨと称し、第一等の闘牛用牛産地ヴェラガ公爵所有の牧場出身にして、父は、かつて名闘牛士ドン・リイヴァスを角にかけたる猛牛|銅鉄王《レイ・デ・アソ》七世、母なる牛は――。」
と言ったぐあいに、「牛量いくら、牛長《ぎゅうちょう》――鼻先から尻尾の端まで――幾らいくら。牛性兇暴にして加徒力《カトリック》教の洗礼を拒否し、年歯二歳にして既に政府運転の急行列車に突撃を試みたることあり。ようやく長ずるに及び、猛悪果敢の牛質、衆牛にぬきんで――」なんかと、まあ、いったふうに、牛の生立ち・日常生活・その行状《カンダクト》等を記述して余すところない。みんな買って、わくわく[#「わくわく」に傍点]しながら読んでいる。
入口《ポエルタ》は大混難だ。
何しろ、襯衣《シャツ》一枚きりないものは、その一まいの襯衣《シャツ》を質におき、近在近郷の百姓はもちろん、
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