ニ砂と音と色との一大交響楽。
 獣類と人の、生死を賭した決闘。
 上から太陽が審判している。
 その太陽が、このすぺいん国マドリッド市の闘牛場《ア・ラ・プラサ》に充満する大観衆の一隅に、今かくいう私――ジョウジ・タニイ――を発見しているんだが――この真赤な刺激は、とうとう私に、人道的にそして本能的に眼を覆《おお》わせるに充分だった。
 が、いくら私が眼をつぶったって、事実と光景はこのとおり活如として私の四囲に進展しつつある。
 だから、どうせのことなら私も、このペン先に牛の血をつけて、出来るだけ忠実に写生し、織り交ぜ、「あらぶ・すぺいん」風の盛大な絵壁掛けを一つ作り上げてみたい。
 To begin with ―― of all the exoticism, gimme Olde Spain!
 で、これから闘牛場へ出かけようとして、いま現実にマドリッドの往来に立っている私――THERE! ここから着手しよう。
 西班牙《スペイン》では、私も意気な西班牙人《スパニヤアド》だ。放浪者の特権。小黒帽《ボイナ》をかぶってCAPAを翻《ひるがえ》してるDONホルヘ――私――の上に太陽が焼け、下
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