ユく[#「ぷくぷく」に傍点]と黒い血が沸《わ》いたよ牛の血が! 血は、見るみる砂に吸われて、苦悶の極、虎視眈々《こしたんたん》と一時静止した牛が、悲鳴し怒号し哀泣し――が、許されっこない。もうここまで来たらお前が死なない以上納まりが付かないんだから、おい牛公! そんな情ない眼をせずに諦めて死んでくれ。そら! また、闘牛士が近づいた。今度こそは殺《や》られるだろう――ひっそりと落ちる闘牛場の寂寞――。
 やあっ! 何だいあれあ?
 棒立ちになった馬、闘牛士の乗馬が盛んに赤い紐《ひも》を引きずり出したぞ。ぬらぬら陽に光ってる。
 EH? 何だって? 馬が腹をやられた? 角《つの》にかかって?――あ! そうだ、数条のはらわた[#「はらわた」に傍点]がぶら下って地に這って、砂に塗《まみ》れて、馬脚に絡《から》んで、馬は、邪魔になるもんだから、蹴散《けち》らかそうと懸命に舞踏している!
 それを牛が、すこし離れてじいっ[#「じいっ」に傍点]と白眼《にら》んでる――何だ、同じ動物のくせに人間とぐるになって!――というように。
 総立ちだ!
 歓声、灼熱、陽炎《かげろう》、蒼穹《そうきゅう》。
 血
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