サかに戦《おのの》いていたんだが、通うと言えば、一たい西班牙《スペイン》ほど結婚の絶対性を大事にしている近代国家はあるまい――どうも色んな方面へ話題がさまようようだけれど、これがみんな今に一頭の牛に対して必然的関係を生じてくるんだから、ま、もすこし聞いてもらうとして――西班牙《スペイン》では、結婚は、地に咲いた神意の花だとあって、早いはなしが、姦淫者を見つけて斬りつけても、殺さない限り必ず無罪だし、たとえすこしくらい殺したところで、むしろ「名誉の軽罰」でごく簡単に済む。それほど合法の結婚を保護するに厚い。言うまでもなくこれは、加徒力《カトリック》教の教義が極端にあらわれているんだが、それの結婚の尊重が度を過ごして、決して離婚ということを許さない掟《おきて》になってるので、間違って咲いた神の花はどうにも萎《しぼ》みようなくて往生する。つまり一度結婚したが最後[#「最後」に傍点]――ほんとにこれが最後――こんりんざい離婚は出来ない。どだい離婚という言語はすぺいん[#「すぺいん」に傍点]の辞書にはないというんだから、いざ結婚というまえに女は非常に要心する。これは何も女に限った理窟ではなく、「
前へ 次へ
全67ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング