Z十年の不作」籤《くじ》を引き当てちゃあかなわないから、男だって相当に警戒するんだろうが、どうも古代から受身のせいか、物語のうえでは女ばかりが嫌《いや》に被害妄念をもって用心することになってる。では、どう要心するかというと、ここに一対の青年男女があって恋を知り、両方の親達が許し合うと、これがほかの国だと文句なしに早速結婚しちまうところなんだが、西班牙《スペイン》ではそうは往かない。ここにはじめて男のまえに、長い試煉の月日が展開し出すのである。AH!
 親が承知の婚約の仲だから、男も、昼は公然と訪問する。これはまあいい。厄介なのは夜だ。可哀そうな男《セニョル》は、毎晩毎晩CAPAと称する黒い円套《マント》――裏に凝《こ》って、赤と緑のだんだん[#「だんだん」に傍点]の天鵞絨《びろうど》なんかを付けて通《つう》がってる――そいつをすこし裏の見えるように引っかけ、ボイナ[#「ボイナ」に傍点]というぽっち[#「ぽっち」に傍点]のついた大黒帽《だいこくぼう》の従弟《いとこ》みたいな物をいただき、もっと気取ったやつはカパのなかにギタアを忍ばせたりして、深夜に女《セニョリタ》の住む窓の下へ出かける。
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