ゥら南方へレスの黄葡萄酒かなんかがぶ[#「がぶ」に傍点]呑みしている。言うまでもなく|その他多勢《エキストラ》の組であんまりぱっ[#「ぱっ」に傍点]とする役じゃないが、そのなかで、一きわ黄色い大声を発して存在を主張していたひとりの「村の若い衆」があった。それがわがペトラの愛人ドン・モラガスだった。モラガスは水を呑んじゃあ義務のように酔っぱらって、しきりに仲間の肩を叩いて笑っていたが、そうこうするうちにほんとの芝居がはじまったと思ったら、一同こそこそ[#「こそこそ」に傍点]追い出されちまった。あんな金切声《かなきりごえ》を連発するやつ[#「やつ」に傍点]が居ちゃあ肝腎の会話の邪魔になるからだろう。それからあとで、宮殿の番兵になってちょっとおじぎをしたきり、その夜のモラガスの出演はこの二つだけだった。
 こういういすぱにあ俳優ドン・モラガスである。が、舞台外では、かれは主馬頭《モンテイロ》横町の甘味《スウイティ》を相手に実演「|夜の窓《ベンタアナ・デ・ノッチニ》」の主役をつとめていた。
 主馬頭《モンテイロ》の旧屋敷へ馬の脚が通ってくるなんて、私もこの恐ろしい偶一致《コインシデンス》にはひ
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