Eデ・モンテイロ》の Sweety だった。
 すでに甘味《スウイティ》だから、ペトラはあの、アンダルシアの荒野に実る黒苺《くろいちご》みたいな緑の髪と、トレドの谷の草露《くさつゆ》のように閃《ひら》めく眼と歯をもつ生粋のすぺいん児《こ》だったが、仮りに往時の主馬頭内室《セニョラ・モンティラ》ほどのBEPPINじゃなかったにしても、何しろマドリイの少女――と言ってももう二十五、六だったが――なんだから、このモンテイラ街のペトラにも疾《と》うに一人の男がついていたということは、そのまま、受け入れられていいだろう。
 などと、何もそうむき[#「むき」に傍点]になることはない。要するにうちのペトラに恋人あり、その名をモラガスと言って西班牙《スペイン》名題歌舞伎リカルド・カルヴォ一座の、まあ言わば馬の脚だった。じつは一度、私はこのドン・モラガスの舞台を見たことがあるんだが、幕があくと、グラナダあたりの旅人宿《ポクダ》の土間で、土器の水甕《みずがめ》の並んだ間に、派出《はで》な縫いのある財布《アルフォリヨ》を投げ出したお百姓たちが、何かがやがや[#「がやがや」に傍点]議論しながら、獣皮の酒ぶくろ
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