天ずぼんの夜業工夫・腹巻《ベルト》に剃刀を忍ばせている不良少年《アパッシェ》・安物の絹のまとまったコティ製の女――これらがみんな露路と入口と鋪道をふさいで、ざわ[#「ざわ」に傍点]めき、饒舌《しゃべ》り、罵《ののし》りあい、大げさな表情と三角の髯《ひげ》がフェルトの上履きのままおもてを歩き、灯《ひ》の明るい酒場《バー》から呶鳴るバリトンが洩れ、それに縋《すが》って|金切り声《フォルセット》のソプラノが絡み、つづいて卓子《テーブル》が倒れてグラスが砕け、一膳めし屋の玉葱汁《たまねぎじる》――定価金三十|文《スウ》也、但し紙ナプキン使用の方には二十五サンチイム余計に頂きます――に人影が揺れ――この、楽しい窮乏と色彩的な喧噪のSEBASTO街なる「おいらの巴里《パリー》」を、ぶう[#「ぶう」に傍点]と迂廻したわが妖怪自動車は、やがて、びいどろ[#「びいどろ」に傍点]のXマス緑樹《トリイ》に色電気をかけつらねて、そこへ香水を振り撒いたような、最も高価な好奇の牧場、真夜中過ぎのシャンゼリゼエを――ぶう[#「ぶう」に傍点]と第六の場処へ。
シャンゼリゼエからちょいと横へ切れた、眼立たない裏通り、
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