繧ノ春画を密売したり、そうかと思うと、セエヌの塵埃船を夜中にせっせ[#「せっせ」に傍点]と掃除していたり、メニルモンタンあたりの軒下にボルドオ赤《ルウジ》――一九二八年醸造――の壜《びん》を抱いてぐっすり眠っていたり、古着屋に乗り移って、車を押しながら天へ向って鋭い呼び声を投げ上げて行ったり――その他、かれらの千変万化ぶりは枚挙にいとまもないが、これらのノウトルダムの grotesques が仮りに人格化した有機物こそは、夜の巴里の忠実な市民なのだ。邪教のMECCAの狂信的な使徒達なのだ。
げんに今も、その妖怪の一つは、日本老人アンリ・アラキという存在を藉《か》りて、こうして「生ける幽霊たち」の行列を引率している。ひょっとすると、この「脱走船員ジョウジ・タニイ」なる性格も明かに妖怪の化身かも知れない。ただ近代の百鬼夜行だから、練り歩くかわりに大型自動車をすっ[#「すっ」に傍点]飛ばしてるだけだ。N'est−ce pas ?
夜が更けるにしたがって、巴里は一そう生き甲斐を感じてくる。
ことにその裏まち――ノウトルダムの化物どもは巴里の裏町を熱愛する。
例えばこの、美しく不潔で、巨大
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