てる幽鬼――これら石造の畸形児の列が、肘《ひじ》と肘をこすり、互いに眼くばせし合い、雨の日には唾をしながら、はるか下に霞む巴里を揶揄している。
これがノウトルダムの、いや、世界に名だたる巴里の、妖怪像なんだが、より[#「より」に傍点]驚くべきことは、夜になって魔性の巴里が「べつの生」を持ち出すが早いか、これらの奇像群がのこのこ[#「のこのこ」に傍点]塔を下りて来て夜っぴて町じゅうをうろつく一事である。うそ[#「うそ」に傍点]でない証拠には、私はよく夜の巴里《パリー》で、この、現実にそして巧妙に人間化している妖怪どもに会った経験があるのだ。
土耳古《トルコ》の伯爵になりすましてグラン・ブルヴァアルの鋪道の椅子に 〔ape'ritif〕 を啜《すす》ってるのや、セルビヤの王子に化けて歌劇のボックスに納まってるのや、諾威《ノウルエー》船の機関長として横町の闇黒で売春婦と交歩してるのや、なかには波蘭土《ポーランド》の共産党員を気取って聖ミシェルのLA・TOT0で「赤い気焔《きえん》」を上げてみたり、ぶらじるの大学生に扮して「|円い角《ラ・ロトンド》」で喧嘩してみたり、タヒチの画家と称して街
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