なみい》る僧正大官を驚かしたことも、そして今、そのノウトルダムは巴里第一の名所として、見物の異国者が引きも切らずに出たり這入ったりしてることも――これらはみんな、巴里のノウトルダムかノウトルダムの巴里かてんで、誰でも知ってる。いわんや中殿の屋上に十二聖徒の立像が巴里を見張っていることや、その有名な塔のうえに、より[#「より」に傍点]有名な異形変化《いぎょうへんげ》の彫刻が、これもおなじく巴里を見張っていることやなんか――有名だから誰でも知ってる。
が、そう何からなにまで誰でも知ってるんじゃあ僕も物識《ものし》り顔をする機会がなくて困るんだが――ここにたった一つ、これは確かに僕が最初に発見したんだと揚言して憚《はばか》らない、「ノウトルダムの妖怪」という新事実があるのだ。
妖怪は、塔の上の変獣化鳥《へんじゅうけちょう》、半人半魔の奇異像《グロテスクス》である。
まあ、聞きたまえ。
7
故郷を見捨てるのはロマンテストの哀しい権利だ。みんな他の種族の秘夢をさぐり、新しい人生の瞥見にあこがれ、地球の向側の色彩をおのが眼で見きわめたい衝動に駆られて旅に出る。そして、そのうち
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