十五、六の、女になり立てのから三十歳前後まで、十人あまりの女群のなかには、アルジェリイかどこか植民地産らしい黒人の女もいた。水に濡れて、膃肭臍《おっとせい》のように光っていた。それがみんな、水中の必要に応じて思い切り行動する――その全部を細密に照らし出して、石化したようにじっと振りあおいでいる一行の肩に、頭に、絨毯のうえに、硝子《ガラス》ごしの光線は千切《ちぎ》れ雲のような投影を落している。
 上は明るい海底と人魚の乱舞、下は、ぽうっ[#「ぽうっ」に傍点]と月夜の森のような半暗《はんやみ》の凝結だ。
 幻のように水の音が聞えていた。
 戸外へ出ると、ノウトルダムのてっぺんに巴里《パリー》の月が引っかかって、石畳が汗をかいていた。夜露が降りたとみえる。
 この NOTRE DAME ――ノウトル・ダムの寺院だが、これこそは、巴里のノウトル・ダムかノウトル・ダムの巴里か、てんで誰でも知ってる。そしてそれが、船の形をしてセエヌに浮んでいる、小さな|市の島《イル・デ・ラ・シテ》の小高いところに建ってることも、昔シイザアが威張り散らして羅馬《ローマ》からここへ来たとき、巴里《パリー》はこのセ
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