Eルエー》の詩人・波蘭土《ポーランド》の画家・ぶらじるの画家・タヒチの画家・日本の画家が宵から朝まで腰を据えて、音譜と各国語と酒たばこの香《かおり》と芸術的空気を呑吐《どんと》して、芸術的興奮で自作の恋の詩を――隣の女に聞えるように――低吟したり、そうかと思うと、おなじく芸術的興奮で真正面から他人の顔を写生したり、やがて出来上ったスケッチを珈琲一碗の値で当の写生の被害者へ即売に来たり、あらゆる思索・議論・喋々喃々《ちょうちょうなんなん》・暴飲・天才・奇行・変物――牡蠣《かき》の屋台店と鋪道をうずめる椅子の海と、勘定のかわりに長髪族が掛けつらねた「|円い角《ラ・ロトンド》」内部の壁の油絵と――畢竟《ひっきょう》らてん区は、それ自身の法律と住民をもつ芸術家――真偽混合――の独立国である。詩人と画家とその卵子《たまご》たちが、笈《きゅう》を負って集まる桃源境《アルキャデア》なのだ。
ま、それはいいとして、アンリ・アラキの探検隊にはいま俄かに用のないところだから、自動車はこの詩人と絵かきの小父さん達の国を突破しておそろしく暗いここの小路に停車したわけだが――|円い角《ラ・ロトンド》や円天井《
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