ィはだらりと椅子の背にかかっていた。下着とブルマスとコルセットと靴下だけのマアセルだった。が、間もなく彼女は、部屋のまん中でかなぐり[#「かなぐり」に傍点]捨てるように――上半身に柔かい電灯が滑って、光った。そして顎を引いたマアセルは、ちょこちょこ[#「ちょこちょこ」に傍点]と小走りに急いで、寝台の横へ行った。そこですべてを下へ抛《なげう》った。さあっと電灯の滑って光る部分が俄かに広くなった。あとは――マアセルはいま寝台の端に腰を下ろして――
美人マアセルの私生活。
SHhhh!
みんなの眼がずらりと壁に覗いているのを彼女は知らない。
ここで、マアセルを愕《おどろ》かせないように、しずかに、ごく静かに、いささか話しを後へ戻す必要があるのだ。
SHhhh! もう一度最初からはじめよう。
これより先、その夜九時半、中天に月|冴《さ》え渡るセエヌ河畔はアルキサンドル橋のたもとに、三々伍々、黙々として集《あつま》っている影坊子《かげぼうし》のむれがあった――と言うと、千八百何年かの革命党員の策動みたいで、これから暗殺でもはじまりそうでいかにも物騒だが、なあに同じ物騒は物騒でも、そん
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