q万来の「モナコの岸」は誰でも知ってるとおり昔から美人女給の大軍を擁し、それで客を惹いてるんで有名だが、この「モナコの岸」の浜の真砂ほど美人女給のなかでも、美人中の美人として令名一世を圧し、言い寄る男は土耳古《トルコ》の伯爵・セルビヤの王子・諾威《ノウルエー》の富豪・波蘭土《ポーランド》の音楽家・ぶらじる珈琲《コーヒー》王の長男・タヒチの酋長・あめりかの新聞記者・英吉利《イギリス》の外交官――若い何なに卿――日本の画家なんかといったふうに、なに、まさかそれほどでもあるまいが、まあ、すべての地廻りを片端《かたっぱし》から悩殺し、やきもきさせ、自殺させ蘇生させ日参させ――その顔は何度となく三文雑誌の表紙と口絵と広告に使われ、ハリウッドの映画会社とジグフィイルド女道楽《ファリイス》とから同時に莫大な口《オファ》が掛って来たため、目下この新大陸の新興二大企業間に危機的|軋轢《あつれき》が発生して風雲楽観をゆるさないものがある――なあんかと、いや、つまりそれほど一大騒動の原因になっているくらいの「巷のクレオパトラ」、「モンマルトルのヴィナス」、「モナコの岸」の金剛石とでも謂《いい》つべきのが、今
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