カ字が、灯《ひ》の滝のように火事のように、或いは稲妻のように狂乱し出すのを合図に、星は負けずにちかちか[#「ちかちか」に傍点]してタキシが絶叫し、路《みち》ゆく女の歩調は期せずして舞踏のステップに溶けあい、お洒落《しゃれ》の片眼鏡に三鞭《シャンパン》の泡が撥《は》ね、歩道のなかばまで競《せ》り出した料理店の椅子に各国人種の口が動き、金紋つきの自動車が停まると制服が扉《ドア》を開け、そこからTAXIDOが夜会服《デコルテ》を助け下ろし、アパルトマンへ急ぐ勤人《つとめにん》の群が夕刊の売台《キオスク》をかこみ、ある人には一日が終り、ほかの人には一日がはじまったところ――巴里《パリー》に、この話に、夜が来た。

     4

 二十五、六の、どっちかと言うと大柄な、素晴らしい美人であった。
 ここはどうあっても素晴らしい美人でないと埒《らち》が開かないところだし、また事実素晴らしい美人だったんだから、私といえども事実を曲げることは出来ないわけだが――で、その二十五、六の、どっちかというと大柄な素ばらしい美人が――。
 とにかく、最初からはじめよう。
 巴里浅草《モンマルトル》のレストラン千
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