『そうです。どんな驚異があなたを待っていることでしょう!』
ここで、くだんの若い英吉利《イギリス》紳士の頭に、ちょいとまくった女袴《スカアト》の下からちらと覗いてる巴里の大腿《ふともも》が映画のように flash したに相違ない。
彼は、誤魔化《ごまか》すように眼《ま》ばたきをして、
『いつ?』
『今夜九時半。』
『どこで落ち合います。』
『橋《ポン》アレキサンドルの袂《たもと》で。』
彼はうなずいた。私は歩き出す。彼の声が追っかけて来た。
『いくらです、案内料は。』
『九百九十八|法《フラン》。』
『高いですね割りに。』
『あとから考えると、むしろ安いのに驚くでしょう。』
これで完全に征服された彼は、
『じゃ、今夜。』
と嬉しそうに手なんか振っていた。ざま[#「ざま」に傍点]あ見やがれ!
たった一人だが、ここに私もやっと自発による犠牲者を掴まえたわけで、どうやらアンリ親分にも合わせる顔が出来たというものだ。
あとは、夜になるのを待つばかりだが――面倒臭いからぐうっと時計の針を廻して、無理にももう夜になったことにする。
で、夜――エッフェル塔にCITROEN広告の電気
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