万人の権利《クレイム》する「|私の巴里《モン・パリ》」であろう!
流行型の胴のしなやかな若い女が、流行型の大きな帽子箱を抱えて、流行型の自動車へ乗るべく今や片足かけている細い線描の漫画――これが「巴里」だ。なぜなら、彼女の長い睫毛《まつげ》と濃い口紅は必ず招待的にほほえんでいるだろうし、すんなり[#「すんなり」に傍点]と上げた脚は、失礼な機会《チアンス》の風にあおられた洋袴《スカアト》――多くの場合それは単にスカアトの名残りに過ぎないが――の下から、きまって靴下の頭と大腿の一部を覗かせているだろうし、そして花輪のようなその靴下留めには、例外なく荷札みたいな一片の紙が附いてるだろうから――「|あなたへ《プウ・ヴウ》!」と優にやさしく書かれて。
影と光りとエッフェルと大散歩街とマロニエの落葉と男女の冒険者とヴェルレイヌの雨とを載せて、ふるく新しい小意気な悪魔「巴里《パリー》」は、セエヌを軸に絶えず廻っている――ちょうどモンマルトルの|赤い風車《ムラン・ルウジ》のように。
それと一しょに人の感覚もまわる――酔った中枢神経をなかに。
みんながみんな「自分の巴里」を持ってるからだ。
笑
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