ほど各国語によってそれぞれ自国風に異なった発音で呼ばれているところはあるまい。それがいま人口七十万を擁してアマゲル島の一部に跨《また》がり、その市政、その博物館、その教育機関と社会的施設――。
What is THAT ?
じつに色んなものが私の視野を出たりはいったりする。
まず、歌劇役者のような伊達《だて》者の若紳士が、白の手袋に白いスパッツを着用し、舞台の親王《しんのう》さまみたいに胸を張って私たちの真向いの額縁屋へ消えた――と思ったらすぐ、今度は帽子なしで羽ばたきを手に店頭へあらわれ、職業的ものしずかさでそこらの塵埃を払い出した――のや、蕪《かぶ》と玉菜《たまな》と百姓を満載したFORD――フォウドは何国《どこ》でも蕪と玉菜と百姓のほか満載しない――や、軽業《かるわざ》用みたいにばか[#「ばか」に傍点]にせいの高い自転車や、犬や坊さんや兵士や、やがて、悪臭とともに一輌の手押車がきた。羊か何かの剥《は》いだばかりの皮を山のように積んで、車輪から敷石まで血がぽたぽた落ちている。私達が思わず鼻を覆ったら、車の主の、焦茶《こげちゃ》色の僧服みたいなものを着た、ベトウヴェンのような顔
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