に発見している私達のすぐ横手、つまりこの「あたらしい王さまの市場」から、一ぽんの狭い往来が左へ延びて、凹凸《おうとつ》のはげしい石畳・古風な構えの家々・地下室から鋏の聞える床屋・作り物のバナナを軒《のき》いっぱいに吊るした水菓子屋・そのとなりのようやく身体《からだ》がはいるくらいの露路へ夢のようにぼやけてゆく老婆の杖・瀬戸物屋の店に出ている日本の Hotei・朝から夕方のような紫の半闇・ゆっくりと一歩々々を味《あじわ》うようにあるきまわっている北欧哲人のむれ・そして建物の屋根を斜《ななめ》に辷《すべ》る陽ざしが、反対側の二階から上だけを明るく染め出しているコンゲンスガアドの町――「こぺんはあげん」は身辺のどこにでも転がっている。
 むかし、ロスキルドのアブサロン僧正という坊さんが、ここバルチック海の咽喉《のど》ズイランド島に「すこしの土地を買った」。この「彼はすこしの土地を買った―― He Bought a Bit of Land」という文句を丁抹《デンマーク》語でいうと、取りも直さずクプンハアフンで、かくのごとく一つの完全な意味をもつくらいの比較的長い文章だから、このデンマアクの首府
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