た宮殿のあと」というのがある。いわれを聞いてみると、グスタフ三世がヴェルサイユと同じプランで一七八一年から九二年まで十二年かかってやっと土台だけ出来た時に、暗殺されてしまったのだと。だから「建たなかった城のあと」で、畳々《じょうじょう》たる石垣と地下室と隧道《とんねる》が草にうずもれ、|大きな松《タアル》、|小さな松《グロウ》――青苔で足が滑る。
森《ハガ》の入口、カペテントという野外カフェへ這入る。十七世紀の近衛兵営舎。門に一|風致《ふうち》。お茶一杯一クロウネ十四オウル。
郊外ドロットニングホルムでは、「王の小劇場」だけは見なければならない。近代的なプロンプタアBOX、天使の降りる雲、その天使や悪魔の消滅する仕かけ等すっかり調《ととの》っていて、観覧席には当時のままの標字が残っている。騎士席、侍従席、侍女席。ずっと上のほうに宮廷|理髪師《フリイジア》席、宮廷靴磨き席、宮廷料理人席――何と華やかな笑い声の夜をこれらの席名が暗示することよ! 光る鎧《よろい》と粋な巻毛の鬘《かつら》と、巨大なひげ[#「ひげ」に傍点]と絹のマントと、股引《ももひ》きと道化者と先の尖った靴と!
エレン
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