、が、金が何です! 金よりも心でしょう! 強いこころこそ国と人のたからです!――まあいい。こいつらがこうやって物質にばかり走って好《い》い気になってるあいだに、日本はどんどん心の修養を怠りません。そのはずです。心のないところに何があり得ましょう! じっさい私は「|東洋の心《オリエンタル・マインド》」というものを幾分か理解し、そしていつも尊敬しています。』
 彼は奇妙な慷慨家《こうがいか》肌の男で、熱してくると、いつか眼にいっぱい涙を持っていた。
 古いストル・トルグの広場――一五二〇年|丁抹《デンマアク》の暴王クリスチャン二世がここでスウェイデンの貴族達を虐殺したという、歴史に有名な「血の浴《ゆあ》み」のあと。株式取引所のまえだ。黒い石畳。
 ここへ行ったら、ついでに近くの、ゲルマン時代からある地下室料理デン・ギュルデン・フレデン――オステルランガタン五一番――へ寄らなければならない。画家アンデルス・ゾルンが買い取ってアカデミイへ寄附したもので、場処それ自身も芸術的に面白く、おまけに料理がいい。この家を訪《と》わずにストックホルムを去るなかれ。
 帝室公園の森《ハガ》の奥に「建たなかっ
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