たり、そのあいだも、何にするのか女中のお仕着せみたいな染め絣が一尺二尺とよく売れて行く。
 アルトベルグさんは非常な論客だ。ほとんど完全に近い知識階級の日本語でまくし立てる。
『日本はほんとにいい国です。私も度々《たびたび》行きました。また行くつもりです。しかし、もうあんまり掘出し物はありませんな、高価《たか》いばかりで。いや、たかいの何のって、とても私なんかにあ手が出ません。この写楽はいいでしょう――が、このへんになるとどうも――それから広重――と、氏は読みにくい昔の日本文字を自由に読みこなして――東海道五十三次|掛川之宿《かけがわのしゅく》。どうですこの藍の色は! 嬉しいですね。さあ、ほうら! 歌麿です。この線――憎いじゃあありませんか。ねえ、この味が判らないんだから、毛唐なんて私あんなけだもの[#「けだもの」に傍点]だって言うんです。』
 とだんだん昂奮してきて、
『それあ私も西洋人ですけれど、西洋の文明はもうおしまいですね。退歩しつつあります。なっちゃいないんですからねえ。まるで泥棒ときちがいの寄合《よりあ》いだ。自制なんかということは薬にしたくてもない。一に金、二に金、三に金
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