諾威《ノウルエー》の首府だ。タキシがないので大学通りのホテルまで古風な馬車を駆る。
雨後。坂みち。さむぞら。
何という北へ近い感じであろう! なんたる、生れのいい孤児のような、気品ある「もののあはれ」がこのオスロであろう!
そこへ、夜だ。暮れるともなくぼんやりと明るい北の白夜――そうすると、街角に立つ人影も、尾を垂れて小路へ消える犬も、港の起重機のかすかなひびきも、すべてがひとつの浪漫のなかに解けこんで、人はごく自然に、最も陰鬱な人生のトラジディさえ肯定出来る心状《ムウド》に落ちるのだ。
雨後。坂みち。さむぞら。
以下、オスロ探検記。
一ばん先にブロガアドという場末のと[#「と」に傍点]ある横町へ行ってみる。十五世紀に出来た町と、家と、人と風俗がそのままに残っているというのだ。アケルス河の小流れを渡るとすぐのところに、珍奇な木造の小家屋が、すっかり考えこんで並んでいる狭い町がある。これだ。歩道には大きな自然石が出鱈目に敷かれて、漁村のような原始的な建物が櫛比《しっぴ》している。通りの巾は一|間《けん》もあろうか。それが、じっさい十五世紀の眼抜きの場所はこうであったに相違ない
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