ゥ、とにかく、
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|桜んぼ一束十銭《ミュレルトュルベンテ》!
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というところであろう。彼らじしん、船の入港するのを山の上から見て、そこで早速そこらに成っていたのを摘《つ》んで売りに来たものに相違ない。いささかの木の実を大きな葉へのせて、昂奮に眼の色を変えながら右往左往している。
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ミュレル・トュルベンテ!
ミュウ――レル・トュルベエインテ!
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That's that.
フィヨルドへ這入る。木の生えた岩石の島がちらばって、ジグ・ザグの小半島が無数に突出し、端倪《たんげい》すべからざる角度に両側から迫っている。ところどころに石油のタンクが見える。低い島を浪が洗って、船は、そのあいだをかわして進む。高い寒い空、無そのもののように澄みきった大気、赤と青と黄色の別荘、モウタ・ボウトの上から手を振っていく人。すっかり秋――というよりむしろ冬のはじめのひやり[#「ひやり」に傍点]とする気候だ。
早朝から一日いっぱいフィヨルドは舷側について走る。
夕方ちかくオスロ。
OSLO――もとのクリスチャニア。
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