る頁。
 掘割りにそって曲りくねった、ボルスガアドのでこぼこ[#「でこぼこ」に傍点]道を辿ることしばし、またクニッペルスボロの橋を過ぎれば、蕭々《しょしょう》・貧困・荒廃が何世紀かの渦をまく寒々しい裏町アナガアドの通りだ。
 ユニイクな建造物がある――|われらが救い主の教会《フォル・フレルセンス・キルク》。風変りな二八〇|呎《フィート》の高塔。一六一七年、時の名建築家ピンスボルグの建てたもので、塔の外側を奇妙な階段が螺旋状に巻いて頂上に達している。この螺旋段が、塔の内部でなしにそとについて、太陽をめがけて昇っている、つまり太陽を懼《おそ》れないものだ、じつに恐ろしいほど大それた設計である。各々方《おのおのがた》、左様では御座らぬか――というんで、当時の人たちが寄ってたかってさんざんピンスボルグをきめつけて異端者あつかいにしたので、可哀そうなピンスボルグはそれを苦に病んだ末、とうとうこの自分の建てた塔のてっぺんから地上へ身を投げて儚《はか》ない最期をとげたとのこと。いかにも十七世紀らしい話だ。そのピンスボルグの怨霊かどうかは知らないが、塔上の立像が、一八〇一年にネルソンの砲射を受けて片脚
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