るその相棒《パル》とおぼしく、小っぽけなくせにいやに巴里《パリー》めかしてこましゃくれ[#「こましゃくれ」に傍点]た女とが、相方ともに決死の二字――漢字である――を眉間に漂わせ、世にもさっそう[#「さっそう」に傍点]として闊歩してきたんだから、覚悟のほども察しられて、みんなおどろいてこっちを見ている。とにかく、係員はびっくりしたような声を出した。
『銀翼号《シルヴァ・ウイング》――正午十二時の飛行ですね?』
『そうです。』
飛行機にはもう飽きあきしているというような顔で、私が答える。
『ちょいと巴里《パリー》まで。』
『は。旅券、切符をお出し下さい。それからこの表へ御記入のうえ署名願います。』
旅券はいい。切符も二週間まえから買ってある。そこで、彼女とともにかたわらの机にならんで、めいめいに渡された紙片に所要事項を書き入れ出したが、彼女曰く。
『嫌《いや》ね。何だか遺言を書いてるようで。』
『国籍、氏名、年齢、住所――なるほどこれさえ残ってれば、どこの誰が死んだのかすぐ判るわけだな。これあ何だ、ええと、たとえ墜落即死致し候《そうらえ》ども、ゆめ御社を恨むようさらさら御座なく候。後日
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