のためよってくだんのごとし、か――ははあ、ここへ署名するんだな。』
なに、ただいつもの出入国の形式に過ぎないんだが、虫の知らせとみえて、どうもそんなような書類に見えてしょうがない。
停車場の待合室そっくりな部屋に、旅行者のむれが不安げにうろうろしている。その一人ひとりが、外套手荷物その他機上へ運び入れるもののすべてを身につけたまま、順々に計重器のうえに立たされて、体重とその衣類手廻品の総合重量を取られる。彼女が呼び上げられたとき、中世以来の騎士道により私がそのハンド・バックを持っていてやろうとしたら、
『彼女をして自身そのハンド・バックを持たしめよ。しかしてわれらをして彼女の身辺の全部に関する最も正確に近き重さの数字を知らしめよ。』
BUMP! 私は叱られてしまった。
「倫敦巴里間――帝国航空路」という絵紙が荷物にべたべた貼られる。だんだんこころもちが軽く――飛ぶ前だから――なる。右往左往する赤帽、制服の事務員、案内者、立ちばなし、別れの挨拶、笑い声、あわただしさ――こうなるともう普通の待合室と何らの変りもない空の停車場だ。ただ客種がよく、あらゆる設備がはるかにモダンで gran
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