オたもんだね。』
 と一つ、亜米利加《アメリカ》人の観光客みたいに曖昧に感心しておいて、彼女を促し、ショファを引具《ひきぐ》してちょっとそのウェリントン大公の参謀本部を訪問する。
 二階が本部兼居間兼寝室だ。「すっかり当時を心得て」いそうなお婆さん――この家《や》の主婦兼ウォタアルウ郵便局長――が出て来て、
『これが将軍の使った椅子と机。』
『ははあ、大したもんですな。』
『これが将軍の寝台。』
『へえい! 大したもんですな。』
『これが将軍の――これが将軍の――これが将軍の――。』
 弾丸だの槍だのぼろぼろ[#「ぼろぼろ」に傍点]の肩章だの――もちろんすべて将軍の――を一まわり見て戸外《そと》へ出る。
『これが将軍の踏んだ階段だね。』
 私がこういって木の梯子《はしご》段をこつこつ蹴ったら、運転手は眉を上げて保証した。
『もちろん、そうです。』
 じぶんのものみたいだ。この運転手はブラッセルの町で拾ったのだが、若いにしてはじつによく「当時を心得」ていて、把輪《ホイイル》を握りながら、散策中の鶏や犬や、時には村人をあわや[#「あわや」に傍点]轢《ひ》きそうになるのもかまわず、はんぶんう
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