ている入口をくぐる。
 フォウドのタキシが走り出すまえのような、へんに舞踏的な震動だ。
 が、何という愉快な小客間《プチ・サロン》! 機首が高いので坂のように傾斜している細長いキャビンに、両側に窓、みどり色のカアテン、それに沿って片っぽに十人ずつ二十の座席、緑いろ――そもそも緑色は人の神経を鎮静させる効用をもつ――びろうど張りのふくよかな肘掛椅子、上に網棚、まんなかに通路、絵笠をかぶった電灯、白服の給仕がひとり――「空をゆく応接室」と言っていい。
 一同またたく間に席へつく。中央部が一ばんいいと聞いていたので、ふたりは素走《すばし》っこく立ちまわって背後《うしろ》から五番目へ左右に別れて腰をおろす。妙にしらじらと冴えわたって、死生|命《めい》あり論ずるに足らずといった心境だ。おもむろに眼をうつして機内を見まわす。
 女、十六人――内訳、七十歳あまりの老婆ひとり、中老七人、若い細君――彼女を入れて――四人、女学生三人、五、六歳の少女ひとり。
 男、四人――うち自分を含む。但し男女とも国籍不明。これだけが「死なばもろとも」のみちづれである。
 Grrrr――が高くなり加速度になり、見送人は
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