一そう遠くへ追いやられる。出発が近いのだろう。みんな無言で一せいに椅子のはしを掴む。と、正面の小窓をとおして飛行士の運転房《カックピット》が見える。そら! 乗ってきた。色の黒い「空先案内《パイロット》」の横顔。や! 笑ってるぞ! 機外の助手に手を上げて――白い歯、太い首、われらの英雄よ! 君はゆうべ充分の眠りをとってくれたろうな。身心爽快だろうな。とにかく、こうしていま二十二個の生命――私と彼女と君じしんとボウイさんのとを通算して――が、すっかり君ひとりの技能と沈着と「|咄嗟の考察《クイック・マインド》」とにかかっているのだ。君、この飛行さえ無事にやりとげたら、僕は同乗客に演説して君のためにトロフィを贈ろう。ブライトンに別荘を建てて献じよう。君の子供たちの教育費は一さい僕らが負担してもいい――。
 空は誘惑してやまない。
 飛行士の巾ひろい背中がまえへしゃがんだ。
 BUMP!
 機は地上をすべり出す。
 ――GRRRR・轟々爆々―― and then, BUMP!
 BUMP!
 BUMP!
 BUMP!
 はじめは遅く、ようやく早く、それからあせるように※[#「足+宛」、第3水準1
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