驍ス》みたいな“Trivia”のなかに、
A――小路《アレイ》はぶらぶら歩きに持ってこいだし、
B――本屋《ブック・セラア》の主人は天気の予言が上手だし、
C――群集《クラウド》は馬車がくると左右にわかれ、
D――塵埃屋《ダストマン》には閉口だ。
などとE・F・G・Hと trivial なことを詩の形式であげてある。
月並《トリヴィアル》には相違ない。が、よくこのABCの詩をにらんでしばらく眼をつぶり、それから眼をあけて、こんどは行と行のあいだをじっ[#「じっ」に傍点]と凝視していると、私はそこから昔の倫敦《ロンドン》が青白い姿でよろばい出てくるのを見るのだ。
私は空想する――一、二世紀まえの倫敦の街上を。
織るような人通りだ。
黒子《ほくろ》を貼った貴婦人と相乗りの軽馬車を駆っていく伊達《だて》者。その車輪にぶら下がるようにして一しょに走りながら、大声に哀れみを乞う傴僂の乞食。何というそれは colourful な世であったろう!
古本屋のおやじは一日いっぱい往来へ出て両手をうしろへ廻し、空を見上げて天気の予言に夢中だ。通りすがりの御者の鞭《むち》が一ばんあぶない
前へ
次へ
全63ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング