キ。私もこちらで買って掛けかえました――何か蒐《あつ》めてる物? そう、行ったところで匙《さじ》をあつめています。』
 ここで羽左《うざ》がかえり見ると、東道役がいままで集めた記念匙《スヴェニア・スプン》を列挙する。
『ホノルル・桑港《サンフランシスコ》・ニウメキシコ・市伽古《シカゴ》・ナイヤガラ・紐育《ニューヨーク》・巴里・倫敦・エデンバラ・ストラットフォウドオンアヴォン。』
『それから、帰って楽屋へ飾ろうと思って方々で写真を買っています。』
 羽左衛門がつけ足した。
 何しろ、あのせっかく大きな耳が何の役にも立たないんだから、どうやら眼で見たことと、ほうぼうの日本人に言われたことしか這入っていないわけだ、などと誰やらわるくちをいった人もあったようだが、ただ一つ、たしかに実感と思えたのは、
『西洋じゃあ何でも自分でするからいい。ことにこうして旅をしていると、まあ自分のこたあじぶんでするほうが多がさあ。それが自然運動になります。それに食い物の時間がきまっていて、ほかの時に勝手に食うわけにいかない。日本じゃあんた、よる夜中に帰って来ても、ちゃあんと女中が起きて待ってて、茶を出す。すると意
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