。それに広告がふるってる。
 日本語で印刷してある部分だけ見本に二、三。
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多年日本紳士|諸彦《しょげん》ノ御引立ヲ蒙《こうむ》リ廉価ニ御調製|仕候《つかまつりそうろう》。
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 これはフェンチャアチ街一四九番のブリストウ&スタアリング洋服店。御|叮嚀《ていねい》に日本字の書き版である。
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日本御料理仕出シ御旅館 日ノ出家
日本食料品製造元特約代理店トシテ特別安価ニ販売仕候
英国製毛布ヒザ掛類
製産地直接取引ノ為メ日本ニ輸出|卸値《おろしね》ト同様多少ニ拘《かかわ》ラズ勉強|仕《つかまつ》リ御便宜ノ為メ事務所トシテ日ノ出家ニ実物|取揃申居《とりそろえもうしおり》候|間《あいだ》御買上|被下度《くだされたく》候
  創業千九百八年[#地から5字上げ]矢野商会
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 これも書いた字。次ぎは活版だ。
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支那御料理|並《ならび》にすき[#「すき」に傍点]焼
一、支那御料理特別献立
 昼食壱|志《シリング》八|片《ペンス》 夕食弐志六片
  其他《そのた》御尋ねに従い各位様の御嗜好に相叶《あいかな》い候御料理色々御紹介|可申上《もうしあぐべく》候
一、すき[#「すき」に傍点]焼開始
 牛鍋 弐|志《シリング》六|片《ペンス》
 鳥鍋|及《および》豚鍋各参志及参志六片
 鴨鍋及鯛ちり各参志
  プライベイト大宴会室の設備も有之《これあり》候
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 これこそストランド「中国|飯店《めしや》」藤井《ふじい》米治《よねじ》氏大奮闘――の紙上披露である。すき[#「すき」に傍点]焼開始並びに神秘的な豚鍋よ、永久にBANZAI!
 さて、新聞のことはこれでいいとして羽左衛門だが――。
 こういういきさつ[#「いきさつ」に傍点]を経たのち、こつぜんとしてパアク・レイン・ホテルの帳場に出現した私たちである。市俄古《シカゴ》トリビュウンの写真班が亜米利加《アメリカ》漫遊中のニウジイランド鉱泉王を襲撃に来たように、うっかりしている番頭の顔へ、私は出来るだけ気取った発音を吹っかけてやる。
『ミスタ・ウザエモン・イチムラという日本の俳優の方が――。』
 と言いかけた私は、じつはここらで、その赤毛の番頭が大いに感激の色を呈し、思わず、AH! とか、OH! とか多分の肯定と「
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