《はらんば》いに隠れて、ただぼんやりしてるわけにも往かないから、自分のこの使命と立場をときどき思い出しながら本を読んでいるのだが、ふと室内に衣《きぬ》ずれの音がしたような気がして、頁から眼を離した。そうしてすこし首をまげると、寝台の脚をすかして向うの大鏡が見える。何気なくその鏡にうつっているものが眼にはいった私は、声を立てるところだった。
 レムではない。女なのだ。
 どこから来たのか、下宿のおかみさんより二つ三つ年上で、小ざっぱりしたなり[#「なり」に傍点]の、ふとった女である。そとから這入って来たものでないことだけは一目でわかった。部屋着らしいドレスに上穿《スリッパ》をはいていたからだ。それが、すぐそばで私が見てるとも知らず、じつに世にも生真面目な顔で、提げてきた水入《ジャグ》の水を非常に注意ぶかく、そこにわざと招待的にぬぎすててある私の靴のひとつへあけ出したものだ。何か荘厳な宗教上の儀礼をいとなんでいる時の高僧のような女の顔と、しずかに水を飲んでいる私の靴とを鏡のなかに見ていると、その妖異さはわけもなく私から呼吸を奪って、そうそう[#「そうそう」に傍点]たる水音が部屋を占めるな
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